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東京高等裁判所 昭和30年(う)485号 判決

控訴人 被告人 丸田真一郎

弁護人 松岡末盛

検察官 山口一夫

主文

本件控訴を棄却する。

理由

弁護人控訴趣意第三点について

然し乍ら、刑事訴訟法第三二一条第一項第二号本文に所謂「検察官の面前における供述を録取した書面と公判期日における供述とが相反するか若しくは実質的に異なつたもの」であるが為めには、必らずしも供述の全部に亘ることを要せず一部についても苟くも犯罪事実に関する供述であつて相反するものがあるか又は実質的に異なるものがあれば足りるものと解するを相当とする。されば所論指摘の真庭一郎の検察官に対する第五回供述調書の供述と原審証人としての同人の公判廷における供述との間に原判示第一の(一)の金額のみにつき実質的に異なるものあり他の事実は毫も異つていないとしても、右供述調書を以つて刑事訴訟法第三二一条第一項第二号に該当する書面として証拠調をなしこれを事実認定の証拠に供するも固より適法であつて毫も違法の廉あるを見ない。此の点の論旨はその理由がない。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 中野保雄 判事 尾後貫荘太郎 判事 渡辺好人)

弁護人松岡末盛の控訴趣意

第三点論旨第一点記述の如く原審検察官が甲第五号証(真庭一郎の検察官に対する第五回供述調書中の第二項第三項)を刑事訴訟法第三百二十一条第一項第二号によつて証拠調請求をなしたるは論旨第一点原審公判調書摘記の如く検察官の面前に於ける供述と原審公判廷に於ける供述とが「金額饗応の場所」について刑事訴訟法第三百二十一条第一項第二号本文後段の所謂「検察官の面前における供述を録取した書面と公判期日における供述とが相反するか若しくは実質的に異なつた」ものとしたものなることは明白である。

飜つて甲第五号証の記載によれば原判決判示第一の(一)の事実に於ける饗応の場所は藤屋旅館であり金額は甲第三号証(藤屋旅館の領収書)記載の金額であつて原判決判示第一の(二)の事実に於ける饗応の場所は藤屋旅館であり金額は甲第二号証(藤屋旅館の領収書)記載の金額である。他面真庭一郎の公判廷(昭和二十五年十二月二十五日の第三回公判期日)に於ける供述を見るに原判決判示第一の(一)の事実に於ける饗応の場所は藤屋旅館であり金額は記憶していないと述べて居り原判示第一の(二)に於ける饗応の場所は藤屋旅館であり金額については原審検察官始め原審裁判官又は原審弁護人も何等の供述を求めていない事は右公判調書の記載で明白である。従つて原審検察官が刑事訴訟法第三百二十一条第一項第二号に該当するとする箇所は僅かに原判決判示第一の(一)の金額のみにしてその他は毫も実質的にも異つていない。果して然らば原審が刑事訴訟法第三百二十一条第一項第二号に該当するとして甲第五号証の証拠調を為し之を有罪判決認定の証拠としたるは違法である。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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